本・映画の紹介

2014年12月に亡くなった鎌田克己さんが兄・鎌田俊彦さんの交流誌『そうぼう』に書いた文章をまとめたもの。服役していた新潟刑務所での連続獄死事件を契機に獄中者処遇問題や死刑廃止に心を砕いた彼の記憶のために、ぜひ書架に置きたい1冊だ。〔明月堂、1800円+税〕

『世界』2016年3月号

2016年8月12日

 特集2「日本にはなぜ死刑がありつづけるのか」堀川惠子による千葉景子インタビュー、デヴィッド・ジンソン、指宿信、佐藤舞、田口真義、多和田葉子ら。〔850円+税〕

1888年に初版が刊行された涙香の翻案探偵小説。「誤認逮捕と誤判への警鐘を鳴らし、人権の尊さを訴えた最初の死刑廃止小説」と帯にあるように、本書を読み進めると最後に置かれた「萬國死刑廢止協會」の挿画に死刑廃止論者は驚くだろう。130年も前に涙香は原作を超えてこう主張したのだ。
「世に裁判ほど誤りの多き者はなし。誤りと知らずして無罪の人を死刑に処するもまた多し。一たび死刑に処したる後は、死人に口なし。これを知るによしなし。これを知るは再び命を償う道なし。余は足下の如き義に勇む人々が、一日も早く万国死刑廃止協会を設けん事を望むなり。」本誌読者、必読の一冊である。
〔インパクト出版会、 2300円+税〕

『愛に疎まれて—〈加藤智大の内心奥深くに渦巻く悔恨の念を感じ取る〉視座』芹沢俊介著
加藤智大の4冊の手記を素材に、何故に死刑が予測されるような事件を犯すに至ったかを、彼の養育過程に探った論考。「孤独だと無差別で殺す」という加藤の命題を解くことは「このような出来事を未然に防止するための基本的な手だてになるはずだ」と著者は言う。
〔批評社、1700円+税〕

誤判で執行された飯塚事件の久間三千年さん、獄中死に追いやられた三鷹事件の竹内景助さん、帝銀事件の平沢貞通さん、三崎事件の荒井政男さん、波崎事件の富山常喜さん、そしていま現在獄中で冤罪と闘う風間博子さん、高橋和利さん、阿佐吉広さんに焦点を当てた冤罪死刑批判のレポートと当該者からの書き下し原稿。大石進による竹内景助から布施辰治弁護士への書簡の紹介は大石著『弁護士布施辰治』にも掲載されているが、本書再掲の意味のある興味深い内容だ。
〔鹿砦社、1800円+税〕

「『死刑』こそが国家殺人の『権利』を担保する装置として機能してきたのだ。だからこそ『死刑』を考え、命や社会、国家に対する思想を鍛えたい」と、京都にんじんの会が2014年10月に京都シネマで実施した死刑映画週間、本書はそのトークショーをまとめたものだ。上映作品は「休暇」「執行者」「再生の朝に」「A」「軍旗はためく下に」、話し手は高山佳奈子、永田憲史、金尚均、張惠英、堀和幸、石原燃、中村一成、森達也、太田昌国。「死刑について考えるとは、命について、社会について、国家について考えること!」。ぜひ、見て、読んで、考えてほしい。
〔インパクト出版会、 1000円+税〕

 

タイトルにある安保法を死刑制度に置き換えても違和感なく読める本だ。つまり、なぜ最高裁が違憲判決を出せないかの理由を占領期の「砂川判決」の政治的背景の説明から始め、それ以降、上しか見ないヒラメ裁判官化が進行し、まれに下級審で違憲判決が出ても上級審でひっくり返る。しかし絶望してはならないと著者は説く。選挙に行くように市民がいくつもの裁判を起こし、たとえ負けても市民が主権者であることを明確にしていくことを訴える。
〔三五館、1400円+税〕

『愛と痛み 死刑をめぐって』辺見庸著
 2008年4月5日に、九段会館でFORUM90主催で行った辺見庸さんの講演会を元に、毎日新聞社から出版された単行本が、さらに加筆されてコンパクトな文庫になった。辺見さんの本文はもちろんだが、文庫化に際して新たに収載されたFORUM90でもおなじみの鵜飼哲さんの解説も、実に読み応えがあり、新たな一冊に生まれ変わった感さえある。
 さあ、スマホばかり覗いていないで、102グラムの文庫を両手で持って、講演会を聴きに来られた方も、来られなかった方も、辺見さんの声と息づかいを感じながら、紙のページを一枚ずつめくって、『死刑を本当に執行しているのは誰か?」を考えてほしい。
〔河出文庫、 640円+税〕

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